「まず大切なのは自分を見つめ直した上での気付き。次いで対人関係を築く能力、さらに生徒への指導力の向上というステップを考えていた。福祉施設などで受け入れてもらうことも検討していた」。静岡市教委の池田富夫教職員課長は、女子生徒の卒業アルバムに「厄介者」を意味する「黒い羊」という英語を寄せ書きし文書訓告処分を受けた後、依願退職した男性中学教諭が受けるはずだった“幻の研修”の概要を明かした。
市教委は資質の底上げが必要な教員に対する、政令市としての独自の認定、研修システムを来年度からスタートする予定。男性教諭の研修が持ち上がったのは、そのための本格的な議論が始まった矢先だった。
「この教諭が変わるまで、実効性がある研修を腰を据えてやる」。池田課長の決意は固かった。学級や授業を受け持たず校務分掌も外れ研修に専念する男性教諭に、定期的にリポートを提出させ、市教委も学校訪問して指導することを決めた。
今回、市教委があらためて痛感したのは、人の痛みや思いやり、人とのかかわり方を理解できる教員の育成の大切さ。池田課長は「学校や教育センターから出て、外部の施設で体験することが人間理解に役立つはず。1人1人の個性や状況に応じた研修が必要。対象の教員を狭い範囲に限定せず、すそ野を広げて実施したい」とシステムの構想を語る。男性教諭の研修プログラムは“ひな型”として、今後の議論のベースにする方針だ。
さらに、政令市移行に伴い面接を全面的に市が担当するなど独自性が強まる7月からの教員採用試験について、「人物をしっかり見よう」という機運が今まで以上に高まっているという。
今回の出来事は、個々の教員に関する行政側の実態把握の課題も浮き彫りにした。市教委は「教諭について情報が十分に入ってきていない部分もあった」として、問題発覚後、管理主事の学校訪問の中身を、学校側からの経営方針の説明はペーパーだけで良しとして、授業を見たり、校長から話を聞くことによる教員の状況把握により力を入れるよう改めた。
市内の中学の40歳代の男性教員は「問題の表面化は、管理職に勇気を持って教員を指導したり、課題がある教員の実情を市教委に報告することを促すことになった。いずれの対応も、子どものためを考えれば当然のこと」とみる。西条光洋市教育長は「使命感や子どもへの愛情は教員の大前提。今回の問題を組織全体の問題と受け止め、現場を再点検する」と力を込めた。(教育取材班)