玄関先に現れた女性は「お話することはありません」と扉を閉じた。電話に出た男性は「指導力不足教員」という言葉を切り出すと、沈黙の後、「気持ちを察してください」と受話器を置いた。2人とも県教委から「指導力不足教員」の認定を受けていた。子どもに適切な指導ができなかったり保護者との信頼関係が築けない「指導力不足教員」。県教委は再教育を研修の1つと位置付けるが、「指導力不足」の5文字は重く、認定や研修制度の運用実態は必ずしも外部に明かされていない。
県総合教育センター(掛川市)での研修は、午前8時半からの「朝の会」で始まり、「帰りの会」をやって午後5時すぎに終了。担当の指導主事がマンツーマンで付き、個々の状況にきめ細かく対応する。実態を知る教育行政関係者は「指導力という教員の根幹の能力が不足していると言われ、退職も頭によぎらせながら、孤独でぎりぎりの判断でやってくる。家族に伝えていない場合もある。しっかり支援してあげなくては」と力を込めた。
序盤はこれまでの教職生活を徹底的に振り返り、自分の問題点の把握に努め、自己洞察のリポートも書く。次の段階はグループワークや模擬授業を交え、自分の感情や思考の特徴の理解、他者を認め協調する姿勢の育成が中心。後半は生徒指導や学習指導の実践力向上を図り、所属校や協力校での研究授業もある。
研修は半年間で、改善状況によっては復帰不可として継続となる場合もある。「若手は欠点にしっかり気付かせれば改善するケースが多い。ベテランは気付きつつも直視しようとしなかったり、これまでずっと客観状況をきちんと言われてこなかったため、改善が難しい」。こう指摘する教育行政関係者もいる。
平成14年の県教委制度開始以降、認定者は14人。うち8人が職場復帰、4人が依願退職、2人が再教育中。分限免職(本人に道義的責任がない免職)もできるが、適用例はない。
15年度に全国で認定された指導力不足教員は481人。都道府県、政令市別ではゼロから41人までさまざま(本県は6人)で、県教委は「認定や研修のレベルに対する考え方の違いも反映している」と分析し、「本県は手間を十分に掛け丁寧に対応している」と説明する。
これまでの県内の認定者には、一方的な授業だけでなく「子どもが怖い、子どもを叱れない」という状況の教員もいたという。県教委は認定・研修制度について「何よりも子どもの立場に立って、教壇に立つのにふさわしくない人には、ふさわしい人になってもらおうということ」と強調した。(教育取材班)