中学校の職員室で森下一郎教諭=仮名=は夕日をぼんやり眺めながら自身に問い掛けていた。「おれが何をしたというんだ」「人間的に嫌われているのか」。授業中、受け持ちクラスの、ある女子生徒が投げ掛けた刺すような視線が、頭から離れなかった。女子生徒はにらみつけながら、プリントをひったくっていった。
森下教諭は30歳代。民間企業に3年間勤めた後、昨年、県内の中学教諭となった。女子生徒の“反抗”が始まったのは、1学期が始まって間もない4月下旬。森下教諭を無視し、たまに目が合うと「きもい」「うざい」と容赦なかった。リーダーシップもある女子生徒の言動の影響は、クラス全体に広がっていった。
朝、教室に行くと黒板には「担任最悪」の文字。女子生徒と周囲の生徒は授業が始まっても無駄話をやめようとせず、注意しても聞かなかった。「1年目は比較的楽なクラスを任されるから」。森下教諭は先輩の言葉を思い出していた。「ほんとかよ」。目の前の生徒たちは、自分の手に負える相手ではなかった。
ほかの教科を担当する教諭に女子生徒の様子を聞くと「そうでもないよ」と言われ、「自分だけなのか」と一層落ち込んだ。
自分の意思で飛び込んだとはいえ、まだ慣れない仕事。要領も分からず、翌日の授業の準備を終えて家に帰ると、午後11時をすぎることもたびたびだった。収まらない女子生徒の反発と、悪化していくクラスの雰囲気。森下教諭はたまらず、女子生徒に口を開いた。「先生について気に入らないことや、傷つけたことがあったら言ってくれ」。「授業中私たちだけ注意するじゃん」。女子生徒は素っ気なく吐き捨てた。
自分を支えるだけで精いっぱいの日々。しかし、教諭は「悪いことは悪いこととして、逃げずに注意する。生徒の良い点を見つけてほめる」という姿勢だけは貫いた。先輩のアドバイスでもあった。この2点を胸に自分を奮い立たせ、クラスに向かった。
森下教諭は女子生徒の話に粘り強く耳を傾けた。クラスの正常化を願うほかの生徒の存在にも気付いていた。冬休みが迫った12月下旬のある日。相変わらず無我夢中の毎日が続く中、変化は突然やってきた。女子生徒が「先生」と話し掛けてきた。あいさつもしてくるようになった。表情は穏やかになった。
3学期になって森下教諭は、クラスの空気が好転していくのを肌で感じていた。3月上旬に開かれた学年の球技大会。試合を制した女子チームは「勝った、勝った」とみんなで森下教諭のもとに駆け寄ってきた。以前なら想像もつかない生徒たちの反応。「何が生徒たちを変えたのかは、はっきり分からない。ただ、おれはあきらめなかった」。森下教諭は戸惑いながらも、確実な手応えを感じていた。
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このシリーズは、先生が子どもたちと心の交流を築きながら、課題に立ち向かう姿を描く。先生たちは悩みながらも挑戦を続ける。(教育取材班)