「塾の情報ではここも合格圏ということなんですけど」。親の目は真剣だ。「この中学の過去のデータと重ねて考えると厳しそうです」。中学側はきっぱり言う。進路について話し合う中学の3者面談。母親は納得できないといった表情で学校を後にした。
平成15年度に調査書重視から当日の試験重視にシフトした本県の公立高入試。中学側は事前に合否を読みにくくなり、保護者からは「中学は『受けたければどうぞ』と言うばかりで無責任」との声も上がる。絶対評価の導入で教科学力に関する校内の位置が分かりにくくなったことも、塾への依存に拍車を掛けた。
このような“逆風”が吹く中、昨年度、3年の学年主任だった男性教諭は「合否については中学も可能な限りの情報を提供している。難関校を狙わせる傾向が強い塾の指導と食い違う時もあるが、学校に蓄積されたデータを基に、担任だけでなく学校全体の進路指導委員会で分析した情報の質は、決して低くない」と力を込める。
入試制度が変わったことで、本人や保護者の合否判断につながる情報への関心はより高まっている。中学の進路指導は「生き方を考える」ことを基本に、こうした現実的なニーズへの対応も目指す。男性教諭は「もがいている目の前の子どもたちのためにベストを尽くすのがわれわれの使命」と強調。選抜が公、私立ともに2回ずつとなったことに伴い、担任が神経を使う出願手続き作業も増えた。
公立受験者の約9割が挑戦する前期選抜では、不合格者が多く出る。「多くの仲間が落ちるにしても、本人にとって不合格は不合格。『ショックはない』と口では言っていても、顔を見ればそうでないことは分かる」と男性教諭。生徒の気持ちの立て直しは、担任が最も気を使う部分だ。
受験期間の長期化は合格者と不合格者が長い間、同じ空間で生活を共にする状況を生んだ。クラスの緊張感を保つために、「全員の進路が決まるまでみんなで頑張ろう」という雰囲気づくりが、担任にとって以前にも増して重要になった。
高校入試は多くの人が経験する人生の節目。別の中学男性教諭は「下地となる生き方指導がしっかりできているかどうかで、結果に対する受け止め方も違う」と言い切る。進路にかかわる教員として一連の入試が終わった時の心境を、この教諭はこう説明した。
「生徒がどの高校に何人入ったかなんていうことと達成感とは関係ない。重要なのは、みんなが納得する形で自信と誇りを持って新たなスタートを切れる状況をつくれたかということなんです」(教育取材班)