浜北市立浜名小5年2組担任の太田秀子教諭(42)は、発言する児童の一言一言に、「うん」「そうだね」と相づちを打ちながら、大きくうなずいた。友情や助け合いをテーマとした道徳の副読本「とべないホタル」を使った授業。児童の発言を温かく聞き入れる太田教諭の姿勢に、児童も話しやすそうだ。「仲間がいて良かったと感じたのはどんな時ですか」という最後の質問にも、一斉に手が挙がった。
道徳教育や人権教育に長年力を入れている同小で、太田教諭は道徳主任を務めている。そんな太田教諭にとっても、挑戦だったのが昨年11月の授業。「いじめ」という難しい題材に取り組んだからだ。
太田教諭は6年生の担任になった昨年度、「命」と「心」にスポットを当てて道徳の授業を進めていた。そこで突き当たったのが「死」をどう取り上げるかという問題。「このクラスの児童の心に一番響く教材は何だろうか」。太田教諭の脳裏にいくつかのアイデアが浮かんでは消えた。
そんな時に知ったのが、昨年7月のニュース番組。7年前、いじめを苦に自殺した横浜市の高校生小森香澄さんの母親美登里さんの心の軌跡を紹介する内容だった。「番組を見て涙が止まらなかった」という友人の話を聞き、太田教諭の直感が働いた。
思春期にさしかかる小学6年生は友人関係で傷つきやすい時期。身近に起きる可能性もある「いじめ」という問題を通してなら、子供たちも死の重みや思いやりの大切さを理解できるのではないか―。太田教諭はテレビ局に問い合わせ、美登里さんに「授業に協力してもらえないか」とファクスで手紙を送った。
テレビ画面の向こうの人に手紙を出すのは初めてだったが、迷いはなかった。美登里さんから電話がかかってきたのはその日の晩。1児の母親でもある太田教諭は、親としての思いも込めて打ち明けると、美登里さんは授業への協力を快く受け入れてくれた。
太田教諭は授業の構想を練りながら、何度も美登里さんと手紙や電話のやりとりを繰り返した。その中で太田教諭が強く感じたのは「周りで何も行動しなかった人は、いじめた人と同じくらい、香澄さんの心を傷つけていた」ということ。子供たちに授業で何を一番伝えるべきか、太田教諭の気持ちは固まった。(教育取材班)