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やっぱり先生

現役“先生”・記者座談会

2005/07/05

 子どもたちに寄り添い、学びと人間的成長を支える先生たち。3月に始まった静岡新聞社の教育連載企画「やっぱり先生」は、社会状況や教育制度が大きく変化する中、戸惑いながらも目の前の子どもたちと懸命に向き合う先生の姿を描き、同時に課題を探ってきた。締めくくりとして先生と学習塾経営者、取材記者の座談会を開き、現場での日々の実践や教育への思いを語り合った。

 

(座談会出席者)

杉浦美佐子氏

(静岡市立東豊田中教諭教務主任、52歳)
鈴木  武氏 (榛原町立川崎小教諭生徒指導主任、43歳)
長沼  滋氏 (県私塾連盟理事長 弘友私塾塾長、56歳)

杉浦美佐子教諭
鈴木 武教諭
長沼 滋塾長


静岡新聞社教育取材班  
  川内 十郎(社会部)
  杉山 武博(政治部)
  増田 恵子(社会部)

 司会 山下 徹(浜松総局編集部長)

 

 


出会い、感動のある職業 やりがい多忙感 
 山下 学校週5日制で忙しさが増したという声を先生たちからよく聞きますが、どう実感していますか。
 杉浦 週5日制で忙しさに拍車が掛かったと感じています。5日間にギュッと詰めてやらなければならない。特に授業以外で大変になりました。「あの子ともう少し話をしたい」と思っても、時間が取れないというような状況が出ています。先生同士のコミュニケーションの点でも土曜の午後は貴重でした。
 杉山 先生は校務分掌で役が多く付いている。それをこなすだけで大変なのではないですか。
 鈴木 全部の仕事の中で授業にかける労力はどのくらいと問われたら、実感として20%ぐらいと答えます。授業の手を抜いているということでは決してなく、プールの管理、朝の会議、休み時間の宿題チェックなど、教員としてこなさなければならない仕事が非常に多いということ。授業は普通にやって当然で、それ以外の仕事がキャリアを重ねるごとに増えていきます。
 長沼 塾出身の教育実習生を見ていると、書類作りに追われている。教員も書類作りは増えているのでは。皮肉な言い方をすると、子どもを向かずに、違う方向で仕事をしている。それは教員の資質ではなく、システムの問題だと思う。今は「言い訳社会」で、1番のしわ寄せが教育現場に来ている。目の前の子どもたちのことで手いっぱいな上に、外向けの部分もきちんとしなくてはならない。
 川内 先生たちは本当に意味がある忙しさと実感していない部分があるのでは。手応えのない多忙感だから、自分の中でネガティブ感が増しているように見える。
 杉山 やっぱり先生をやってていて良かったと思うのはどんな時ですか。
 鈴木 子どものキラキラ輝いている姿や卒業式の時の涙はぐっときて、この仕事はやめられないと思う。感動のある職業です。普段の授業でも、子どもが頑張った姿、例えば逆上がりがやっとできた瞬間の表情などを見ると、心が1つになれて自分も勉強させられます。
 杉浦 決して多くはないけれど、一生かかわる子が何人かいます。結婚してからも自宅を訪ねてきてくれる。やっぱり出会いですね。日常の中では、やんちゃな子が怒られて、本当は切ないのにふと真顔になる瞬間が好き。子どもから見れば一生の中でいろんな先生に会うが、本当に心に残る先生は少ない。私もその1人になりたい。
 川内 学校の先生とは違う塾のやりがいとは何ですか。
 長沼 塾は学校のような制約がない。僕は教育で大切なのはモチベーションとモラルだと思うが、公教育ではそれを追究するのが難しい。知識体系というものは基本的に「色」が付いていると考えるが、公教育ではモラルや思想はカットしてきた。塾では数学でも、学ぶことがどう人間とつながっているかを明確に伝えている。
 杉山 気賀小(旧細江町)で現場に密着した体験で言うと、クラスの個性さまざまな30人の子どもを教えるのは難しい。その点はどうですか。
 鈴木 1人1人の個を生かすことが求められていますが、授業の中でその時の1人1人の状況をすべて把握し、対応するのは難しい。国語の時間などは、子どもたちのノートを後で見て確認し、その後に役立てるようにしています。
 増田 学校で保護者の対応に苦労することはありませんか。保護者と先生の意思疎通が難しくなっていると聞きます。ストレスになりませんか。
 杉浦 「自分の子どもだけ」と視野が狭くなっている感じがします。基本的なことで、保護者への通知が届かないことでも苦労します。子どもが渡さないし、親も気にしないのでしょうか。中学生なのに「お手紙帳」を作らないと、という話があるくらいです。
 川内 以前に比べて子どもは変わっていますか。
 杉浦 本質的には変わっていません。でも社会性が育っていない気がします。だから子ども同士のトラブルが重大な結果を引き起こすことがある。人の痛みが分からない。
 長沼 一言で言うと社会性が備わっていないんですね。いじめのようなことが起きやすい。だからこそ理科でも社会でも何でも教える時に、人とのつながりを強調している。

 

先生が子どもたちと懸命に向き合う教育現場。出会い、感動が何よりの「やりがい」という=静岡市内

より深い「学び」を体験 総合的学習

 山下 総合的学習(総合)についてどう評価していますか。
 鈴木 小学校の場合、発展的な学習にも使うことができます。例えば、社会科で戦争について勉強した時に、社会科の時間だけで調べ切れなかったことを総合で深めてみようとか。より深い体験やより深い学びができるという意味で、すごく大事だと思います。
 川内 準備は大変ですか。
 鈴木 初めは教科書も何もない中でスタートしたので、すごく戸惑いがありました。今はある程度のノウハウが蓄積されていて、川崎小では5年生は福祉、3年生は地域学習など、学年のテーマを決めて年間指導計画を作っているので、それほど大変ではありません。
 川内 子どもたちに目に見える良い表れはありますか。
 鈴木 楽しみにしているとは思います。自分たちで見学などの計画を立てる時には、まさに目が輝いています。
 杉浦 前任校は完全に個人テーマ追究型でした。先生にもかなり研修をしましたし、中にはテーマを見つけられない子もいて大変でしたが、本当にやりたいことが見つかった子は、徹底的にやりますよね。また、外とのかかわりが増えれば増えるだけ、先生方がアポを取る手間や時間が膨大にかかります。東豊田中は学年ごとにテーマを設定しているので、前年の資料を基に今年の学年が変えていくことができ、それはそれで1つの流れになっています。ただやはり、子どもの中で何が力になっているのかを子供自身も教師自身ももう少し明確に分かるようにしないと、という印象はあります。
 川内 文部科学省のアンケートで、総合への評価が1番低かったのが中学の先生でしたね。
 杉浦 週5日制になり全体の授業時間が減ったうえに、総合に自分の担当教科の時間を持っていかれたという印象が強いんだと思います。
 長沼 体験学習も総合も別に悪くはないけれど、わざわざやることはないと思います。本来、学習に組み込まれているはずではないですか。
 杉浦 総合は学びの気持ちに火を付けてあげる時間だと思います。その時間に何もできない子は普通の授業も大変だったりしますから。
 長沼 自ら遊ぶ力がないから学習する力もないんですよ。だから、それをわざわざ体験学習だとか言って社会的に企画しても、学校の先生の負担が増すだけでしょう。
 杉浦 でも、中学校で自分の本当にやりたいテーマが見つかった子はすごいですよ。1人でずっとアンプの配線に取り組む子もいましたし、もしかしてこれが一生の仕事になるんじゃないかという子も出てくるわけですよ。それは今まで絶対にできなかったことです。
 増田 逆にワンパターンみたいになっているところはありませんか。
 鈴木 全く同じことは無理だし、子どもも違いますから、そういうことはないと思います。
 杉山 総合と教科を選べるとしたら、どちらを選びますか。
 杉浦 私は総合が残ってほしいですよね。
 川内 総合は地域や家庭が本来やるようなことを学校が肩代わりしているという負担感はありませんか。
 杉浦 学校がやらなければ、そういう場がどこにも生まれませんよね。最近各地で誕生している「おやじの会」のように、地域の中で子どもたちの受け皿が当たり前のようにできて、子どもたちが10分活動できるようになれば、また変わってくるかもしれません。
 川内 総合の批判材料の1つとして、先生の能力によってばらつきが出るということをよく聞きます。教員からみても、総合が得意な先生と不得意な先生はいますか。
 鈴木 総合が得意な人はいます。でも、小学校では学年主任や総合学習の責任者を中心として活動内容を決めますから、そんなに差はないのではないでしょうか。
 杉浦 結局それは子どもに対する接し方の違いだと思うんです。子どもが悩んでいる時に「どうしたの。何がしたいの」という接し方ができる先生と、「こうしてみたら」と先に言ってしまう先生と。子どものやる気に火を付けられるかどうかという面で得意、不得意はあると思います。


情熱、前向きな姿が大切 教員の資質
 山下 教員の資質向上や指導力に欠ける教員への対応についてどう考えますか。
 長沼 先生の全体的な資質は以前に比べて間違いなく上がっている。ただ、子どもを受け入れるキャパが狭い先生が多くなった。一見、優しい先生が増えたのは、自分が傷つきたくないからではないのか。
 杉浦 若手の先生で気になるのは、その場で子どもに言い聞かせようとする傾向が強いこと。すぐ直そうとして、かえって擦れ違ってしまう。
 川内 取材をしていて先生の均質化を感じる。破天荒な先生は許されなくなったのか。
 長沼 昔は言いたい放題の先生もいた。今とは社会的状況が違うから通用した部分が大きい。
 川内 静岡市内の中学教諭が女子生徒の卒業アルバムに「厄介者」を意味する「黒い羊」という言葉が入った英文を寄せ書きする問題が起きた。その先生は以前から生徒への暴言などがあったようだが、同僚は気付いた問題点を言えないのでしょうか。
 杉浦 聞く耳を持たない先生には正直、言いにくい。週1回ほどの主任会で話題に上れば、組織として対応します。生徒と先生の間に壁が出来るのが1番怖いので、その点で気付いた点はできる限り声掛けしています。
 鈴木 本人の気付きが改善の第一歩。後輩には率直にアドバイスしている。「聞く耳」の話が出たが、本人の性格だけでなくベースには教員同士のコミュニケーションもある。そのための時間をつくるのが難しい。
 長沼 塾では徹底して言い合う。改善されなければ職を失う。学校の先生がこの部分を放置していることには、子どもの将来を預かっていることに対する責任感があるのかと腹が立つ。そういう先生の存在が不登校の原因にもなっている。
 杉山 入り口となる教員採用に何か提案は。
 杉浦 現実的には難しいかもしれませんが、何年か講師を体験させた後、採用試験を受けるシステムが有効だと思う。採用する側、本人ともに資質や適性がよく分かる。
 杉山 先生たちは忙しい中で授業力や指導力を上げるためにどんな工夫をしていますか。
 鈴木 1つは研究授業。校内研修にも取り入れ、自分だけでは気付きにくいことを指摘し合う。新しいことに挑戦し、評価を聞くこともできる。
 長沼 本当に自由に批判し合い、切磋琢磨(せっさたくま)する場になっているのか疑問。お互いに持ち上げ合い「ごくろうさま」と言い合う場になっていないか。
 鈴木 そうは感じない。私もかつて研究授業で未熟な点をひたすら突かれ、打ちのめされたが、そこから多くを学んだ経験がある。
 杉浦 原点は「この学校が好き」「この学校の生徒が好き」ということ。そういうことを先生たちが照れずに口に出せるようになった時、学校が変わってくる。なぜ好きなのか、嫌いなのかを職員室で言い合う雰囲気づくりがすごく大切。
 杉山 理想の先生像をどう描いていますか。
 杉浦 精神的にめげないタフな先生。いろんなことがあるのは当然で、またやり直す前向きさを持ちたい。子どもとの関係づくりでも「きのうだめだったけど、今日は違う方法で頑張ってみよう」と思える先生は心強い。
 鈴木 教員はまず情熱だろうと思っている。熱くなければ教育はできない。熱く燃える姿で子どもの前に立ちたい。
 長沼 最も必要なのはコミュニケーション能力。特に、発信よりは受け止める力がほしい。
 増田 東京では学校の先生と塾の交流が盛んなようですが。
 長沼 静岡は遅れている。縄張り意識は必要ない。塾も教える技術など研究していることはいっぱいあるから、使えるものは使ってほしい。
 杉浦 学校は幅広いレベルの子どもたちが相手。塾が入塾テストをやらずに全部引き受け、効果を上げてくれたら本当に脱帽しますよ。
 長沼 学校の先生の大変さはそこにある。塾はレベルがそろったやる気がある生徒を相手にしている。先生には「教える楽しさのおいしいとこ取りでごめんなさい」という思いもある。
 川内 さまざまな子どもを相手にしているのが先生の大変さと同時にやりがいであり、誇りなのでは。
 杉浦 それは間違いないですね。

 


 

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