日本地震学会の昭和四十九年度(一九七四年度)春季大会は五月十日から十二日まで、清水市(現静岡市)の東海大海洋学部で開かれた。その出席のために全国から集まりつつあった地震学者らを前日の九日朝、“出迎えた”のが伊豆半島沖地震=マグニチュード(M)6・9=だった。伊豆からの被害のニュースに出席を取りやめて現場へ向かう学者や情報収集に追われる国機関の研究者ら、学会は騒然とした中で始まった。
「南伊豆の被災地調査から帰ったばかりの杉山隆二東海大学海洋資源学科主任教授が長グツ姿のまま飛び入り講演した。杉山教授は『南伊豆でも被害を受けたのは非常に限られた地域。それらの地域も個々には地質的に異なった形態だった』と調査結果を語った」
五月十一日付本紙朝刊には、地震学会に合わせて東海大が開いた講演会に、同大の杉山教授が飛び入りで登場した様子が記されている。
「作業服スタイルのまま壇上に上がった杉山教授は『現地に向かう船の中では下田市もかなりやられているのではないかと思っていた。しかし、下田市は予想ほどではなく、被害は妻良、子浦、入間、中木の四カ所で局地的に起きていた』と語り…」と談話も生々しい。
学会では北伊豆の地殻変動に関する発表もあって、注目を集めた。
「伊豆沖地震は前兆現象が報告されず突然起きたが、四十四年前に北伊豆地震(マグニチュード7)のあった伊豆半島の根元に当たる函南町丹那地方のひずみが予想外に大きくなっており、今後十年ぐらいの間に大地震が起こる可能性があるという研究が、十日清水市の東海大学で開かれた地震学会で静岡大学の檀原毅教授から発表された」
同じ十一日付本紙のこの記事には「10年以内にまた『北伊豆地震』か」と見出しが躍る。
国土地理院出身だった檀原教授は、精密測量の結果から、昭和五年(一九三〇年)の北伊豆地震を引き起こした丹那断層沿いに地殻のひずみがたまっている、と指摘したのだ。「断層付近や西側の韮山、浮橋などの変動は少ないのに東側の宇佐美、網代などでは相対的に約二十センチ北向きに変動しており」と測量地点間にずれが生じている状況を伝えている。
この後、北伊豆地震の再来はなかった。だが、伊豆半島は、伊豆半島沖地震をきっかけに地震と火山の活動期に入り、檀原教授の指摘した北伊豆の地殻変動は平成元年(一九八九年)の伊東沖海底噴火後まで注目されることになったのだ。
(2004.3.1掲載)