スリランカの北東部海岸にポイントペドロというまちがある。そこからコロンボに来ていた医師によると、1キロ四方程度の範囲でお年寄りが20人ほど自殺した。集団自殺ではなく、それぞれ個別の自殺だという。津波によって若い働き手を失い、生活のすべてと生きがいをなくしたという。
スリランカの海岸部の主要産業は漁業と農業である。東海岸のトリンコマリーでは漁業従事者が全体の35%、農業従事者が35%だそうだ。漁民はこの津波で漁船と漁網を失ってしまった。農民は昨年秋の洪水で田が浸水して収穫を得ることができなかった。現在、トリンコマリーの70%の人々は収入を得るすべを失っている。津波は数キロ先の内陸部まで浸入し、田の周辺の草は茶色に変色していた。海水をかぶった田で今年の米の収穫がどうなるのか分からないが、かなりの影響が出るのではなかろうか。津波は被災者から単に生活の場である住宅を奪い取っただけでなく、これから生活していく道具と場所を奪ってしまった。
図は自然災害の発生数、災害による死者、被災者、被害額を国としての所得の大小で比較したグラフ(1975~2000年、アジア防災センター作成)である。発生する自然災害の数は国の所得によってあまり変わりないが、死者、被災者数は圧倒的に低所得国で多いのに対し、被害金額は高所得国で多い。所得の低い国では災害によって死亡し、被災する人々が多く発生するのに対し、高所得の国では人はあまり被害を受けず、持てる財産を失っている。これは低所得の国は被害が少ないということではなく、失う高価なものがないことを意味している。
貧しい人々ほど、生活の「すべ」を災害によっていとも簡単に失いやすい立場にあり、さらに自らその状況を改善していくことが非常に困難である。貧しいがゆえに災害に対して脆弱(ぜいじゃく)であり、それをどうにもできないので再び災害に襲われるという災害の負のサイクルに落ち込んでしまう。災害に強くなるということは、そのための費用が必要である。被災から復旧、復興を経て次なる災害に対応する予防に向かうという災害の正のサイクルに乗せるには、それらの人々が、また地域や国がより豊かになることが必要である。
日本では被災地を支援する災害ボランティアが活発である。しかし、国際的な視野で防災を考えるとき、災害直後の支援だけがすべてではない。防災対策を進めるには貧困からの脱却が大変重要なことであり、日本が国際的な災害支援を行う場合に、単に被災後の緊急支援だけでなく、開発支援という枠の中での長期的支援を継続することが重要だ。
(小川雄二郎・富士常葉大環境防災学部教授)