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教訓 福岡県西方沖地震

(4)進まない急傾斜地対策 公共事業削減が直撃 擁壁整備、個人に負担

2005/06/06
 「がけが目前に迫っているんですよ。擁壁工事ができたらよかったんですが」。今年4月末で廃業した静岡市葵区丸山町の料理屋「割烹喜久屋」。中津川駿社長は建物の裏手に迫るがけを見上げながら寂しそうにつぶやいた。50年以上の歴史を誇る老舗の料亭は、耐震化とがけ崩れ対策という二重の負担の前に廃業を余儀なくされた。喜久屋の廃業は何を意味しているのだろうか。
 喜久屋は、昭和28年に旅館として静岡浅間神社の東隣に開業した。室町時代に江戸城を築いた太田道灌によって作られた庭園で知られる。会席料理屋に衣替えした昭和50年代以降も多くの人に愛された。
 そんな老舗が直面したのが、老朽化した建物の耐震化と建物北側のがけ崩れ対策。耐震化は窓が多い料亭の構造上、大幅な設計変更を迫られ、料亭としての機能の維持は難しかった。それ以上に難題だったのが、がけ崩れ対策。がけは建物から1メートルほどしか離れていない。昨年の台風で倒木の被害があったこともあり、対策を迫られた。町内会レベルで県や市に擁壁設置を陳情したが、行政による工事は実現しなかった。膨大な費用の前に自主工事も断念した。
 喜久屋の裏山一帯は、地滑りなどで人家に被害の恐れがあるとして県が「急傾斜地崩落危険区域」に指定している。同様区域は県内で1039カ所に上る。盛土や木の伐採など災害を助長する行為を制限するほか、県の防災工事の対象個所になる。
 ではなぜ、喜久屋の裏山で工事は実施されないのか。
 その答えを示すデータがある。平成16年度末までの急傾斜地事業対象個所の整備率は27・6%。決して高い数字ではない。にもかかわらず、昨年度と比較するとわずか0・6ポイントしか増えていない。整備率がここ数年横ばいの状態が続いているのだ。県砂防室の加納章室長は「平成10年に230億円弱あった砂防関連予算は、現在、100億円余りと半減した。全国的に公共事業削減の流れにあり、限られた予算では整備率の向上は難しい」と明かす。玄界島で大きな斜面被害を出した福岡県の整備率は13%。静岡県は全国的には「まだましな方」(加納室長)だという。
 ハード事業が進まない中、県はソフト事業に力を入れている。15年度から県のホームページで急傾斜地を含む土砂災害危険個所を公開した。地図を見ることで、自分の住んでいる場所や通勤・通学路が安全かどうかを確かめられるようになった。被害想定を示したハザードマップも作成し、市町村を通じて県民に配布している。
 ただ、こうした広報・啓発活動は、段階的に被害が拡大する降雨による土砂災害には有効でも、突発的に起きる地震災害には意味がない、との指摘もある。
 県が平成13年に発表した東海地震の第3次被害想定では、急傾斜地の山・がけ崩れに伴う被害を、予知なしで死者が最大515人、予知ありでも最大116人としている。要因別では建物倒壊に次ぐ多さだ。
 被害の大きさは分かっているが、被害軽減の特効薬はない―。喜久屋の廃業は、斜面災害対策の難しさを示しているのかもしれない。

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窓のすぐ外側にがけが迫る

=静岡市葵区丸山町の割烹喜久屋



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