被災5日目の29日午前、石川県輪島市の門前総合支所では静岡を含む県内外から参集した医療関係者の連絡会議が始まっていた。「不安やストレスで眠れないと訴える人が多い」「高血圧や便秘が増えている」―。避難所から病院へ運ばれる人が相次ぐなど、日を重ねるごとに、高齢者を中心に健康への影響が顕著に出てきている。
この日も市内25カ所で1500人ほどが夜を明かした。避難住民への保健・医療対応は東海地震発生時にも間違いなく静岡県民が直面する課題だ。不眠に悩む人が多いという諸岡公民館を訪ねた。
「だんだん避難者が減り、やっと足を伸ばして寝られるようになったけど、それでも狭いよ」と神崎よしさん(79)。「私は気にせんけど、人のいびきが気になる人もいるし、余震が怖くて寝られん人もいる」。夜中、トイレに行く人が歩くだけで揺れに驚き、目を覚ます人もいるそうだ。睡眠不足は体力を低下させる。
県、市は市内外の保健師や看護師らによる問診を避難所で行ったり、健康相談所を常設するなどしてケアの充実を進めている。精神面のケアも同日、静岡県立こころの医療センターの医師らを加えて活動の枠を広げた。しかし、現地の声を聞くと、まだ不十分だと思えた。
同センターの山崎透医療部長(47)は「相談数はかなり増えているようだが、医者が足りない」と強調。早速、継続的なケアができる体制を整備するため全国の医師に協力を呼び掛けた。「忘れられがちな、行政など働きづめの現地スタッフの心身も心配だ」と話した。
午後、諸岡公民館周辺の警備に当たる住民や警察官から「車内で寝泊まりする人が増えた」と聞いた。余震への恐怖や個室を望む欲求からだろうが、新潟県中越地震で関連死を招き問題視された「エコノミークラス症候群」の主な原因は、まさにこの車中避難だった。
門前西小避難所も同じ傾向。「車中泊の数は把握していないが、徐々に増えている」と金沢市から派遣された保健師大松由紀子さん(36)。「チラシで注意を呼び掛け、日中、避難所で同じ姿勢が続きがちなお年寄りには予防のための体操も指導しているが、避難所に来ない人までは手が回らない」。避難が長期化すると、体を動かさないことにより全身機能が低下する「廃用症候群」の危険も高まると指摘した。
切迫性が指摘される東海地震、東南海・南海地震に与える教訓は余りに多い。
(東京編集部・松本直之)
エコノミークラス症候群と廃用症候群 窮屈な姿勢、同じ姿勢を続けることで血栓ができ、肺梗塞(こうそく)を引き起こすのがエコノミークラス症候群。廃用症候群は生活不活発病ともいわれ、日常動作が少ないことにより心肺や筋肉、脳など全身の機能が同時に低下する。いずれも新潟県中越地震後に避難住民に症状が現れた。