県民に減災へ次の一歩を踏みだすよう求めた新しい東海地震対策が固まった。「観測」「注意」「予知」という切迫度に応じた情報発信の仕組みが整い、自己責任による行動を問い掛けている。三分類した情報発信に科学者はどんな願いを込め、わが国の地震防災はどのような道を歩もうとしているのか。地震防災対策強化地域判定会の溝上恵会長に聞いた。
―新しい情報体系は、もう「予知」という言葉がなじまない印象もあります。
「早期発見、早期検知の方が適切かもしれません。『当たる、外れる』と言う予知とは違う。気象庁は地震計で地震の波をキャッチして情報発信してきましたが、東海地震は超高感度のひずみ計で私たちが地震を感じる前のプレート(岩盤)のわずかな動きをみています。まさしく二十一世紀型の地震観測を実践しているのです」
―三つの情報には、どのような科学的根拠があるのですか。
「大地震の前に起こる前兆滑り(プレスリップ)が加速すると、後戻りしないと分かりました。東海地震の想定震源域では一つの小さな滑りが次の滑りを呼び、ドミノ倒しのように拡大して大地震に至ることが高度なシミュレーション(模擬実験)で解明されてきました。そういう現象を機軸に情報発信の仕組みを作り上げたのです」
―予知、つまり早期検知による発災までの時間の余裕は、どの程度見込めるのですか。
「御前崎の北側あたりの観測網が密なところなら半日ぐらい余裕があるでしょうし、前兆滑りが海底だったり、雨が降っていたりと条件が悪い場合は注意情報と予知情報が同時に出て、あっという間に地震が来ることもあり得ます」
―注意情報の段階で何をすべきかが課題になりそうですね。
「注意情報は自己責任ゾーンなのです。がけ崩れや津波が心配される地域は避難を始めるべきでしょうし、地盤の良い強固な建物では日常生活を続けることも可能。心構えをしておいて自分の行動をとる大事な時間です。その意味で、市町村の地域防災計画も横並びである必要はない」
―建物の耐震化が思うように進みませんね。
「耐震性を建物の資産価値として評価し、税制を優遇すれば状況は変わるのではないですか。自宅は個人財産であるとともに公共財。一つの家屋が倒れただけで救急救助の決定的な障害になるケースがあることは阪神大震災で学んだはずです」
―東海地震対策の今後を見通してください。
「相手は自然現象であり、過度な期待、極度な悲観論は適当でありません。直前予知は万能薬ではありませんが、取り組まなければ必ず突発地震なのですね。予防防災、発災後の救急救援と合わせた三位一体で、他の地域よりはるかに、防災対応力を高めることが可能なのです」
(2003年09月01日朝刊掲載)