耐震補強を行うまでに、人の前にはさまざまな「壁」が立ちはだかる。壁の前で止まる人、乗り越えていく人。それぞれの理由はどこにあるのだろうか。
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焼津市内の自営業の男性(53)は、母親と二十年来の二人暮らし。築三十年の木造平屋建てに住む。専門家による無料耐震診断を受け、結果は芳しくなかったが、「補強は全く考えていない」と語る。「地震が来ないとは思わないけど、実感として危機感はない。家にいるときに地震が来るとも限らないしね。結局、運じゃないのかな」とクールだ。
二年ほど前、回覧板に入っていた自己診断票を何とはなしに提出した。その後、市から電話で専門家診断を受けるかどうかの問い合わせがあり、「断る理由もないので」頼んだ。評点は「倒壊または大破壊の危険がある」とされる〇・五程度だった。「そんなものかな」と冷静に受け止めた。
厳しい評価にも、男性は補強を行うことに納得する理由を見いだせなかった。「柱もそれなりに太いし、地震でぺしゃんこになるとは思えない」。効果を確信できないことも大きい。「せっかく補強して、もし地震で倒れたら二重投資。耐震補強自体、話題にされたのが最近のことなので、業者に十分な知識があるのかという疑問もぬぐえない」という。
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やはり専門家診断を受けた同市内の自営業増田登さん(65)は「(診断を受けてから)時間がたつと『効果が本当にあるのか』などといろいろ迷いが出てくる。診断の時に補強方法などの対策をセットで示すなど、情報提供の仕組みを考えてほしい」と、即断即決を促す流れづくりを望む。
もちろん、最大の「壁」は金銭的負担だ。東京経済大の吉井博明教授が掛川、焼津市の耐震補強実施百六十五世帯に行った調査で、工事費の平均は二百九十一万円。リフォームなどを並行して行った世帯も多いが、相当の負担額になる。同調査でも「工事費用が相当かかるのではないか」と感じている人が80%近くに上り、心理的抵抗感の強さを示している。「安価な補強工法の開発が、耐震化促進にはやはり不可欠ではないか」。吉井教授はそうとらえている。(「東海地震は今」取材班)