耐震補強して家の倒壊を防げたとしても、住まいの中には、多くの危険が潜んでいる。地震の強烈な揺れは、家具やテレビなどを一瞬にして凶器に変える。「耐震化は大事だけれど、室内対策をしないと意味がない」。家具固定などを推進するNPO法人「震災から命を守る会」理事長の岩滝幸則さん(57)=静岡市=はそう強く訴える。
岩滝さんは神戸市の自宅で阪神・淡路大震災に遭遇した。家は無事だったが、室内は重い本箱が宙を舞って頭すれすれに落ちるなど、おもちゃ箱をひっくり返したような状況だった。地震後、ありったけのくぎを使って家具を壁に打ち付けた。
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費用のかかる耐震補強を一気に進めることは難しい。その観点から内閣府も昨年度、「住宅における被害軽減方策検討委員会」を設け、家庭内対策の推進に力を入れる方針を表明した。こうした流れを受けて県内でも、家具固定や防災ベッドへの補助制度を設ける自治体が増えている。
固定費用の六分の五を補助している袋井市。昨年度は四百世帯余りが利用した。同市葵町の鈴木貞司さん(62)は築二十数年の自宅を最近、耐震補強した。施工した吉永政男さん(67)から家具対策も勧められ、たんすや食器棚などの固定を依頼した。金具やベルトを使って、プロの手際の良さで壁や柱にがっちり固定。「寝室もこれで安全になった」と鈴木さんは笑顔を見せた。
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「家具を留めれば、避難の余裕もできる。大工の技術と補助をうまく利用してほしい」と吉永さん。固定のメリットは直接の転倒防止だけではない。家屋が崩壊しても、固定した家具によって空間が確保され、圧死を免れたケースは阪神でも少なくなかった。
阪神の教訓を生かそうと転居した静岡で、岩滝さんは何度も耳を疑った。「なぜ家具を固定しないのかと聞くと、『壁や家具に傷を付けたくない』。腰を抜かすほど驚いた。命とどっちが大事なのかと」。予想外の危機意識の低さだった。「静岡の人は地震の本当の怖さを知らない。何が自分の身に起こるかイメージできない。だから、本当に必要な対策が遅れている」。経験者の指摘は厳しい。(「東海地震は今」取材班)