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富士常葉大 防災ゼミナール

⑧消防、警察より地域力 命守るコミュニティー

2004/08/30
 「ホコリだらけの遺体の顔をぬぐってあげたら涙の跡がついていた」「自分の決めた部隊の投入で助かった人と助からなかった人が選別された」「そのことが今でも不安、今でも心に残っている」。この言葉は、阪神・淡路大震災から十年近くが経過した昨年、ある消防隊員が語った言葉である。一つの消防署に何百件という救助の要請が殺到したあの時、「声のする者、生きている者だけを救出せよ。あとはそのまま放っておけ」という指示を出さざるを得なかった苦渋の思いは、十年たった今も消えてはいない。
 平成七年一月十七日に発生した阪神・淡路大震災では約二十四万戸の住宅が全半壊し、数万人の人が生き埋めになったと推計されている。そのうち、自衛隊や消防、警察などの救助隊によって救出された人は2%に過ぎず、98%は被災者が自ら助け出していたことが分かっている。
 市民が災害直後から地域を守る活動に携わるためには、まず自分自身が無事であったことが前提となる。多数の被災者に対して実施したインタビュー調査の結果からも、地震発生直後の行動は、「自分自身の生命を守る」―「同居している家族の安全を守る」―「向こう三軒両隣の安否を確認する」というパターンが多かったことが明らかになった。さらに何カ所かで同時に助けを求められた時には、日ごろから仲良くしている人を優先している。
 人の生死がかかった極限状態では、「その人のことを大切に思っているかどうか」で人は動く。家族以外に自分のことを気遣ってくれる人が地域の中にどれだけ存在しているか。それがいざという時に自らの生命を守るために重要な鍵となる。
 自分が災害による被災者になった時、人は「失見当期」に陥る。これはあまりにも大きな衝撃を受けたため、一時的に物事の見当がつかなくなり、正常な判断力を失ってしまう状態を指す。まさにぼうぜん自失の状態から抜け出すために重要な役割を果たしたのが「リーダーの一言」だった。
 誰かが率先して具体的な指示を出してくれることにより、助けを待つだけだった被災者が、貴重な地域の防災力となった。地域リーダーの指揮のもとに多くの住民が集まり、人命救助や初期消火活動を行うことによって、救助を待つ人の大部分を救い出した。「あの時は、消防も警察も自衛隊も市民も、同じ力を持っていた。ただ市民が強かったのは、その数が圧倒的に多かったからだ」。当時を振り返った消防隊員の言葉である。
 阪神・淡路大震災以降、行政の側では様々な防災対策の見直しが行われてきた。救助用資機材の開発や情報システムの導入もその一つである。しかし、地震に立ち向かい、立ち直っていく過程で主役となれるのは、一人一人の市民の力と、市民が築く地域コミュニティーの力にほかならない。(重川希志依・環境防災学部教授)

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